秋田県北西部の八峰町に枕状溶岩(pillow lava)が産することは以前に泊川河口部の例で触れました。その全岩化学組成においてSiO2量は約49重量%と玄武岩質でした(北海道教育大学 相澤正隆博士、私信)。ところが鹿の浦展望台直下の泊海岸には、(おそらく)安山岩質の枕状溶岩が産することが、2024年11月2日の「一般社団法人みんぼうネットワーク」橋本純代表と八峰白神ジオパークガイドの会の西出静会長および瀧本孝子氏との調査により明らかになりました。写真は親枕(1st pillow)から娘枕(2nd pillow)が派生している様子です。
さらに、この海岸には「偽枕状溶岩(pseudo pillow lava)」が産することが明らかになりました。枕状溶岩と偽枕状溶岩の違いは、①前者は円筒状に厚い急冷周縁相を伴い、断面内部において放射状割れ目を呈する、②後者は、より大きな岩塊の割れ目に水が侵入して薄い急冷周縁相を伴い、外形断面に垂直な内部割れ目が発達し、放射状を呈しない、が挙げられます。意外にも偽枕状溶岩は日本で初めて発見されたもので、1970年代に九州の阿蘇カルデラで記載されたのが始まりです。
いずれにせよ、枕状溶岩と偽枕状溶岩が共存する例は世界的にも聞いたことが無く、なぜ両者が一箇所で共存するのか橋本代表や相澤博士とともに解析を進めています。枕状溶岩は玄武岩質~安山岩質~流紋岩質と幅広い全岩化学組成を示すのに対し、阿蘇カルデラの偽枕状溶岩の全岩化学組成はSiO2量が約65重量%と、限定的に高い粘性を示すことが予想されます。ただし相澤博士によれば、溶岩の粘性にはSiO2量や温度のほかアルカリ量や含水量も関係してくる可能性があり、今後、八峰町の類例についても検討を進める予定だと語っています。